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誰かを好きになる事(のだめ) [のだめカンタービレ二次小説(短編)]

俺はいつも誰かと付き合っても頭は冷めていた。

だから俺には付いてこれずに相手が去っていく事が多かった。

でも追いかける気も無かったし俺の中ではたいした事じゃなかった。

俺にとっては音楽以上に価値あるものなんて存在してなかった。

なのにどうしてあいつの事になるとこんなにムキになる。

あんな変態一人いなくたって何の問題もないはずなのに集中できない。

「チアキ、もっと集中しなさい!」

シュトレーゼマンの厳しい声が飛んでくる。

R★Sオケメンバーの手も止まる。

もうすぐ公演会なのに・・・。

「すいません・・・」

何度か注意されたがオッケーがでない。

「もういいデス!今日はここまでにしましょう」

結局オッケーはもらえなかった。

「誰だって調子悪い時ぐらいあるさ」

峰が気を遣って声をかけてくれる。

「千秋くんだって人間だもの」

「気にする事無いぞ」

その言葉が余計俺を焦らす。

いつもと同じように弾いてるのに

どうしてダメなのかわからない。

今までだって何度かスランプはあった。

でも今回はいつもと違う。

帰り道足取りが重い。

『せんぱいなんか嫌いデス!』

あいつの言葉が響いてくる。

俺は公演に集中したくてあいつに

まとわりつかないように言った。

俺は間違ってない。

間違った事言ってない。

愛とか理想とかで生きていけない。

そんな馴れ合いでお互いを縛り付けたり

潰してしまうくらいなら一緒にいる必要ない・・と思う。

静かな部屋に一人。

あいつと出会う前はこんな毎日だった。

寂しいとか感じたことなかった。

ダメだしされた曲をもう一度弾いてみる。

やっぱりわからない、何が悪いのか。

こんな日が数日続いた。

「何が悪いか言って下さい!」

俺は我慢できずに叫んでいた。

「わからナイ?本当に?」

冷たい目。

まるで拒絶されてるような目。

どうして教えてくれないんだ?

オケのメンバーの視線が痛い。

俺の演奏で練習がストップしてしまう。

練習が終わっても俺は一人で続けた。

何時間経っただろう・・。

爪が割れて血がにじむ。

その時誰かが練習室に入ってきた。

「ただ我武者羅に弾いてもだめデス」

それはシュトレーゼマンだった。

てっきり合コンに行って盛り上がってると思っていたのに。

「・・・・」

「チアキには色気がありません」

「色気?」

何言ってるんだ、この人は。

「チアキは人間として一番大事なこと忘れてマス」

「何です?」

「人を好きになる事、人を愛しいと思う事デス」

「それと音楽に何の関係が・・・」

「有名な音楽家達が身を焦がす恋を経験して書き上げたものを

それを知らないチアキが表現できる訳ありません」

「俺だって恋くらい・・・」

いや、俺は音楽が一番で恋なんて数に入れてなかった。

「のだめちゃんと距離を置いてまで没頭しようとした事が

かえってよくない結果を生み出した」

「俺はあいつなんか・・・!」

「いい加減、子供っぽい態度やめなさい」

俺は黙り込んだ。

「これ以上練習しても同じデス。帰りなさい」

その言葉に従うしかなかった。

指先が痛む。

俺は多分音楽以上に誰かを好きになったりする事は

ないと思ってた。

だけど一週間あいつの顔を見ないだけで

俺はまるで無人島でいるみたいな気分から

抜け出せずにいる。

俺は本当にあいつが好きなんだろうか?

翌日から無理やり頭の中からあいつの事を切り離そうと

するのを止めた。

あいつのピアノを初めて聴いた日の事、

二人で連弾した事、音楽とともに色んな思い出が流れ出す。

今日は一度もストップの声がかからない。

昨日と何も変わった気がしないのに。

通し練習が終わった。

「チアキ、やっと気付いたようですね」

「?」

「音楽を愛するように人を愛さなくては機械の演奏と

同じだという事デス」

嬉しそうな顔のシュトレーゼマン。

「いつも千秋さまはすごいけど今日はなんていうか

切ない感じと嬉しさがにじみ出てました」

「俺もよくわかんねえけどすげえ感じが変わった気がする」

「恋の力は偉大だな」

「恋する千秋くんも僕は好きだ!」

「千秋様、真澄にも伝わってきました」

音楽はこんなにも心の中を反映するものなのか?

改めて音楽の凄さと怖さを知った。

今日帰ったらあいつの分も夕飯つくってやろう。

きっとずっとインスタントラーメンだったに違いないから。





























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