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道(のだめ) [のだめカンタービレ二次小説(短編)]

俺はこっち(ヨーロッパ)に来てからも朝のジョギングを

欠かすことはなかった。

走るコースは気分によって変える事はあったが

ある場所だけはいつも通るようにしていた。

そこにはいつも描きかけのキャンパスに向かう初老の男性が居た。

偶然見かけてからその男性とキャンパスに描かれた風景画が

とても気になっていた。

俺が見ているのはその人の後姿。

どんな表情で絵を描いているのかわからない。

そんな日がどれだけ過ぎただろう。

俺がいつものようにそこを通り過ぎようとすると

今日に限ってその人はこちらを向いていた。

はじめて見るその人はとても上品で穏やかな顔だった。

嬉しそうに微笑む。少しずつ俺の方に歩いてくる。

俺は立ち止まった。

「ボンジュール、君は毎日ここを走っていたね」

聞惚れるような綺麗なフランス語。

「ウィ、ムッシュ」

俺に気付いていたんだ。

「声をかけても迷惑じゃなかったかな?」

「ノン。貴方の絵がすごく気になっていたんです」

「本当かい?すごく嬉しいね」

あどけない微笑で嬉しそうに言った。

きっと穏やかな人生を歩んできた人なんだろう。

「描きかけだけど良ければ見てくれる?」

「是非」

近づくにつれて鮮やかな表情を覗かせる絵。

それはどこにでもある小川が流れる風景画。

なのにどこか懐かしくて胸が熱くなる。

「素晴らしい絵ですね」

「下手の横好きだよ。僕は東山魁夷の『道』という絵がすきでね」

「僕も知ってます」

「どこにでもある『道』が描かれてるだけなのに

その絵を見た時涙が零れてきたんだよ」

彼は俺が思っていたような穏やかな人生を送っていた人ではなかった。

一枚の絵に出会い、絵を描き始めたと話してくれた。

人生とはキャンパスに一筆一筆描いていくようなものだと思った。

俺は自分が焦るように急いている事を恥かしくなった。

素晴らしいものを作りあげるには時間を惜しんではいけないとも気付いた。

俺はまだまだこれからなんだ。




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