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秘密(12) [のだめカンタービレ二次小説]

エリーゼは深いため息を落とした。

まだ自分の気持ちの整理はついていない。

彼に会って何を言うのか

何をしようというのか。


「あのエロじじいに振り回されるなんて私もまだまだね」


ー回想(約十数年前)-

「クラシックなんて退屈だわ」

エリーゼはお気に入りの洋服を着て

クラシックコンサートに連れて来られたのが不満そうだった。

「食わず嫌いはよくないよ、エリーゼ」

おしゃれで紳士の父は宥める様に言った。

「だって・・・」

「そうよ、エリーゼ。このシュトレーゼマンのチケットは中々手に入らないのよ」

優しい母はレアなチケットだと付け加えた。


コンサートが終わったら何処かで食事をしましょうと言われて

しかたなく席に座った。

前列から二列目の良い席だった。

指揮者も演奏者も間近に見えた。

どうせ眠くなって寝てしまうだろうと思っていた。

実際学校から演奏会に何度か行った事があったが

友達の何人かは寝てしまったから。


いよいよ演奏が始まった。

あのいい加減そうな指揮者の目がコロッと変わった。

演奏者の顔つきの雰囲気も一変した。



えっ!?何?

一気に音楽がエリーゼの心に流れ込んできた。

この苦しいようなせつないような気持ちは。


すべての演奏が終わる頃には涙が溢れていた。

その様子を両親は心配そうに見ていた事を

よく覚えている。


終演に思わず席を離れてシュトレーゼマンに駆け寄った。

目を真っ赤にしたエリーゼにシュトレーゼマンは少し驚いていた。


「可愛いお嬢さん、私はまた罪作りな事をしてしまったようですね。

許してください」

そういうと微笑んだ。


その優しい顔が忘れられない。

多分、相手はそんな事覚えていないだろう。

何故なら一度もシュトレーゼマンはその時の事を言った事ないからだ。






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秘密(11) [のだめカンタービレ二次小説]

「人は元々同じ人はいない。双子でもね。羨望や妬みで誰かを傷つける方法は

幾つかあるけれど変える事の出来ない何かを取り立てて非難するのは

卑怯だわ。そう思わない?オリバー」

エリーゼは珍しく同意を求める。

人の意見などおかまいなしの彼女にしてはまれな事だった。

それは多分、エリーゼ自身、揺らいでいる表れだろう。


「シュトレーゼマンが一般的に嫌われる民族だという事実は

変えられないわ」

「そんなものは彼の音楽とは無関係では?」

「建前ではね」

まるで教科書のような答えねと言っている様に聞こえた。

「私は、九歳の時両親に連れられて彼の音楽に初めて触れたの。

とても衝撃的だった。今まで感じた事にない体験だったわ。

その時、決めたの。彼の傍で仕事をしたいって」


エリーゼはシュガレットケースからタバコを取り出し火を点けた。

最近は控えていたが今、そういう気分だった。

「十数年後、ボスに頼み込んで私は彼のマネージャーになった。

それまで彼の良くない噂は耳にしていたけれど・・・」

そこまで言うと煙を吐き出す。

「噂以上だった。あんなにも恋焦がれた人がこんなにも

堕落した人だとは思わなかったわ」

「止めようとは思わなかったのですか?」

「何度かそう思ったけれどやっぱり彼の音楽以上に私を衝撃を

与えるものはなかったし、みんなが逃げ出す彼の操縦法を

考えるのは楽しかったから」


「それでも貴女は彼が好きなのですね?」

オリバーの問いにエリーゼはびっくりしたような顔をしたが

すぐに元の表情になった。


「少々長く居すぎたのかもしれないわね・・・」

その言葉は後悔しているようでもあり

諦めのようでもあった。

タバコを乱暴に灰皿に押し付ける。


「おしゃべりの時間はおしまいよ!」

やはりこのままにしておけない。

「ドイツに向かわれるのですね」


「ええ。だからマスコミを巻いて頂戴」

「承知しました」

オリバーは彼女の人間臭さを見た気がした。

初めて会った彼女は高圧的で人を寄せ付けない冷たさを感じた。


だが今は違う。

純粋に彼女を助けたい。



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秘密(10) [のだめカンタービレ二次小説]

兄の言葉にシュトレゼーマンは大粒の涙を流した。

そして何度も謝罪を繰り返した。

横にいる千秋が同情するほど。


「お母さんが亡くなる前ずっとこの写真を肌身離さず持っていたんだよ」

そういうとラードルフは引き出しから古ぼけた一万の写真を取り出して見せた。

それは幼い頃のラードルフ、妹、シュトレゼーマンが椅子に座る母に

寄り添って撮られたものだった。

おそらく父親が撮影した唯一の写真だろう。


「うっ、うっ・・・」

シュトレゼーマンは嗚咽あげながら泣いた。


「おまえを責めるつもりでこれをみせたのではない。

お母さんはおまえの事をずっと気にかけていたんだよ。

最後の最後までおまえは愛されていたんだ。私とべリンダが

やきもちを焼くほど」

「・・・お母さん、ごめんなさい・・・」

許しを請うように何度も繰り返す。


何故、母が危篤だと連絡が来た時に帰ってこなかったのか。

いや、その前に嘘から始めてしまった事が一番の間違いだったのだ。

自分の音楽に自信があれば無名の村であっても

それが人が好まない民族だったとしても

誤魔化す必要などなかった。


どんなに後悔しても過ぎ去った時間は戻らない。


「私に・・・勇気があれば・・・」

「いいや、フランツ。私達も悪かったのだ。おまえが内緒で母にお金を

送ってくれていた事知りながらそれを拒否する事が出来なかった。

結局、口止め料を貰っていたのと同じなのだから」

「そんな事・・・」

「毎月毎月送られてくるお金を無いものとは思えなかった。

実際、お母さんはそのお金で十分な治療を受ける事が

出来たのだから」


シュトレーゼマンは涙を流し続けた。

それでも自分は親不孝な息子だった。


「お母さんの最後の言葉は『私はフランツの一番のファンだから』

だった。そういって眠るように息を引き取った」


確かに母親はシュトレーゼマンの事を心配していたのだ。

そして愛していた。







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秘密(9) [のだめカンタービレ二次小説]

「・・・・・師匠」

俺はシュトレゼーマンが少しでも勇気が出せるように

祈る思いだった。

今、この扉を開かなければもう二度とこんな機会は

やってこない気がした。


二回ノックをした。

「グーテンターク」

シュトレーゼマンは小さい声が緊張を示していた。

程なくドアが静かに開いた。

「まさか・・・、フランツ」

出てきた高齢の男は大変驚いた様子だった。


しばらく沈黙が続いていたがもう一人その男性の妻と

思われる女性が見えた。


「チアキ」

シュトレゼーマンは手招きして千秋を呼んだ。

どうやら中に入る事を許されたようだった。


家の中は住人と同じように年を重ねて少し古びた感じがしたが

包むような温かさを感じた。

この家は何十年も人々に暮らしを見てきたのだろう。

幸せな時も悲しみに暮れた時も。


「チアキ、私の兄のラードルフだ。そして奥さんのフェビエンヌさん」

「千秋真一です」

千秋は丁寧の頭を下げた。

ラードルフはどことなくシュトレーゼマンに似ていた。

顔とか身体的特徴でなく雰囲気が。


「こちらにどうぞ」

木製の大きなテーブルの椅子に促される。

テーブルは幾つも小さな傷があった。

ドイツ人は物を大切にする。

高価なものを買って何代もそれを使い続ける。


「子供たちもみんな独立して二人では大きすぎるテーブルなのよ」

フェビエンヌは懐かしむように言った。

確かに二人で住むには大きすぎる。

空間は寂しさを生んでしまう時がある。

「何から話していいか・・・」

シュトレーゼマンは俯き加減で言った。

「ああ、ごめんなさい。今、飲み物を・・」


「フランツ、生きて君に会えて本当に嬉しいよ」

ラードルフは涙ぐみながらそう言った。


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秘密(8) [のだめカンタービレ二次小説]

シュトレーゼマンは実家の扉の前にしばらく立っていた。

やはり思い切りがつかないのだろう。

帰郷しなかった事を非難されるかもしれない、

それどころか彼の存在自体を否定されるかもしれない。

その恐怖で動けないのだ。


親友が亡くなった時よりも弱々しくて落胆した姿が

とても哀れに見えた。

ーコンセルヴァトワールー

「オクレール先生、どこか具合が悪いんデスか?」

数日後の授業でもオクレールはどこかしら

集中にかけていた。

「いや、すまない。大丈夫だよ」

誤魔化すようにオクレールは笑った。

「もしかしてミルヒの事ですか?」

のだめはしばらく迷ったが咄嗟に口から出てしまった。

「ミルヒ?」

オクレールは目を丸くして聞いた。

「あっ!すいません。シュトレーゼマンデス」

のだめは慌てて言い直した。



「・・・・・・・」

オクレールは何か言おうとしたが

口を押さえてしばらく考え込んでいるようだった。

のだめは演奏を止めてその様子をじっと見ていた。


「・・・・・メグミ、キミを信じていいのだろうか?」

「どういう意味デスか?」

いつになく真面目で怖さを感じるようなオクレールの表情に

のだめは戸惑いながら言った。


「他言しないと約束して欲しい。キミの彼のチアキにも」

真一くんにも・・・・

のだめは少し迷った。

しかし、オクレールのただならぬ様子に承諾した。


「絶対、誰にも言いまセン、約束します!」

のだめは自分の小指をオクレールのそれと絡めた。

「それは一体何だね?」

「日本での儀式みたいなものデス。約束を絶対破らないと誓うというか」


「なるほど」

納得したように何度も頷いた。

 
「私の思い違いなら良いのだけど彼はもしかしたら・・・」


「・・・・・・・!!」

のだめはオクレールの思ってもいなかった話の内容に衝撃を受けた。






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遠い約束(24) [のだめカンタービレ二次小説]

「本当なんデスね?夢じゃないんデスね」

のだめは涙を流しながら聞いた。

「本当だ!俺はいつかおまえと約束した事を

果たしたい」

「覚えていてくれたんデスか?」

「ああ勿論だ、いつか俺とおまえと子供たちで競演しようと二人で

随分前に話したよな」

「・・・・もう叶う事はないと思っていました。でももしかしたらって・・・」

のだめは両手で顔を覆うとそれ以上言葉にならなかった。


「千秋くん、此処じゃなんだから家でゆっくり話したらどげんね」

辰男が穏やかな表情で言ってくれた。

横の洋子はまだ納得がいかないように見えた。


千秋はのだめの少し細くなった肩を抱きながら歩いた。

まだ信じられなかった、

腕の中にのだめがいる事が。


「真理恵を抱いてあげて下さい」

「ああ」

突然、現れた子供だが不思議と愛しいと感じる。


家に戻ると峰の腕の中で真理恵は安心したように眠っていた。

「おかえり」

「峰くん、重かったでしょう。ごめんなさい」

のだめは慌てて真理恵を抱きかかえようと両手を出した。

「虎で慣れてるから大丈夫だ。それより女の子って軽くて小さいんだな。

虎じゃ、こんな風に穏やかに寝てくれないから羨ましいぜ」

千秋は虎太郎が夜鳴きをして峰が困ってるいたのを思い出した。

「清良さん、元気デスか?」

「ああ、世界中飛び回ってるよ」



こんな風に話してると学生時代に返ったみたいだ。

あれから何年も経っていないのに随分昔のようだ。



のだめと交わした約束はすぐには果たせないけど

そう遠くない未来に叶うだろう。

いくつか問題はあるけど俺はきっとそんな事は

越えていけると思っている。

何故なら俺はのだめが横にいない事以外

恐れるものは何もないからだ。








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遠い約束(23) [のだめカンタービレ二次小説]

「千秋くん、恵は君が来るのを待っていたんだ」

「えっ!?」

千秋は辰男の言葉に驚いた。

「恵は何も言わんかったが真理恵をあやすのに

よくあの河川敷を歩いてた」

あの河川敷と言う言葉で千秋は初めて此処に来た事を

思い出していた。

自分の気持ちがわからないまま、のだめを連れ戻すために

大川に来たあの時の事を。

じゃあ、今は何のために此処に来た?

一度は東京に帰ったのに・・・・。

真理恵の事を確かめたかった。

確かにそれもある。

だが、本当の目的は違う!

自分の気持ちを伝えるために来たんだ。


「のだめ、ちやんと俺の気持ちを聞いて欲しい。

俺はおまえに伝えたい事があったから来たんだ」

「真一くん・・・」

のだめは涙ぐんだ瞳で千秋の方を見た。

「俺やっと分かったんだ。おまえが必要なんだって事が。

ただ弱い自分を認めたくなくて三年も過ぎてしまって

本当にすまないと思ってる」

「嘘・・・デス」

のだめは大きく首を振った。

「嘘じゃない」

「真理恵の存在で責任のためだけにそんな事を

言ってるんでしょう?」

「違う!俺はもう一度おまえとやり直したくて帰国したんだ。

ただ、おまえが子供を抱いていて気が動転して何も言えずに

戻ってしまったんだ」

のだめは何度も首を振った。

「幸せに暮らしてるおまえに今更俺がどんなに後悔してるか

話しても迷惑だと思ったし・・・・」

「だって、だって・・・・」

「俺は自分が親父と同じ事をしてしまうかもしれないと

不安だったんだ。だから子供を望んでいたおまえには

酷い事を言って辛い思いもさせた。だけどこの子が

俺の子供で本当によかったと思うし嬉しい」

千秋は照れくさそうに言った。



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遠い約束(22) [のだめカンタービレ二次小説]

「もう終わった事デス・・・・・」

そういうとのだめは俯いた。


「・・・・・・・」

やはり三年は長すぎたのかもしれない。

千秋とのだめの間には大きな隔たりが出来ていた。

「だが、俺の子供であるのなら出来る限りの援助はすべきだと

思うんだ。たとえおまえがいやだと言っても」


「真一くんは・・・責任を感じてるだけなんデスね」

のだめの言葉の意味が千秋は理解できなかった。

「のだめ?」

「それだけなんデスね?」

のだめは顔をゆがめて搾り出すように言った。

「おまえが何を言いたいのか分からない。だから教えてほしい」

千秋は少しうろたえたように声を上ずらせた。


「もうこれ以上何も話す事はありません」

のだめは歩いてきた道を戻ろうとした。

「待ってくれ」

思わず掴んだのだめの手首は少し細くなった気がした。

それと同時にこの三年間どんな思いで生きてきたのか考えた。



「恵、素直になったらどうだ。千秋くんの子供だからこそ

産んだんだろう?」

「お父さん・・・・」

いつの間にか辰夫とと洋子がすぐ近くにいて心配そうに見ていた。

「そげんこつ、恵がこれまで辛い思いをしたか分からんね。病院で

父親がそばにおらんと一人で産んだんよ。周りは夫婦揃って

嬉しそうにしてるのに」

「すいません」

千秋はその言葉を繰り返すしかなかった。

どうしてもっと早く日本に、福岡に来なかったんだろう。

自分など不要だと言われるのが怖くて出来なかった。

確かに自分達には埋められない時間がある。

千秋の心が絶望感で埋まっていこうとしたまさにその時だった。

「どうして言ってくれないんデスか!?」

のだめは両拳を握り締めて体を震わせてそう叫んだ。






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いつもありがとうございます!! [ご挨拶とお礼]

多くの方が来て下さってありがとうございます!!

ここ、一、二ヶ月リアルでハードな事がありまして

こちらの方が放置状態ですいませんでした。

本当はすぐ終わる筈だったんですが

予想以上に話が長くなってお待たせしてすいません。

何とか終わらせようと四苦八苦しています。


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遠い約束(21) [のだめカンタービレ二次小説]

「あの真理恵っていう子供はもしかして

俺の子供なのか?」

身に覚えがないわけじゃない。

というより俺の子供であってほしい。


「・・・・・違いマス」

のだめは俺の方を見ないで小さな声で言った。


のだめの目は見えないけど分かる。

その言葉が嘘だと。


「あの子の名前に俺とお前の名前が入ってる?」


「・・・・・・」


のだめを追い詰めたいとは思わないが

今すぐ真実を知りたかった。

しかし、のだめが言った事は衝撃なものだった。


「・・・・あの子が真一くんの子供であろうとなかろうと

関係ないじゃないデスか」

「えっ!?」

俺は自分の耳を疑った。

何故そんな風に言うんだ?


「関係ない?」


「ハイ」

冷たくて感情のこもっていない言葉。

「関係ない事はないだろう!?」

穏やかに話すつもりだったが

いつのまにか声を荒げていた。


「どうして怒るんデスか?あの時、真一くんは子供なんて

考えられないって言ったクセに」

「あの時?」


俺は過去を思い返した。


最後に言い争った時の少し前を思い出そうと

必死に考えた。

どうして子供の話になった?

俺がそんな話をするはずはない。


いや、それより前にのだめが妊娠している事に

俺は何故気づけなかった。

素直に子供が出来た事を言えなかったのは

俺のせいだ。


千秋は溢れ出しそうになる感情を抑えようとした。


「俺が悪いんだな?」

そんなくだらない言葉しか出てこなかった。









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